全機能を自社で揃えるClio、連携先と判例調査市場への影響
法律事務所向け業務管理ソフトのClioが、年次カンファレンス「ClioCon」でAIを軸に業務の全領域を自社で担う姿勢を打ち出しました。LawNextの番組「LegalTech Week」では、司会のロバート・アンブロジ氏とAbove the Law、ABA Journal、Law360などの記者が、この方針が連携企業や判例調査市場に何をもたらすかを話し合いました。
- Clioは電話応対や受任受付、時間管理まで自社機能化し、連携企業には発表2日前の連絡でした。
- 約10億ドルで買収したvLexにより、Clioは判例や裁判記録の大量データを持つ法務AIの主要企業に。
- あるタスクの費用は18か月で5万ドル相当から69ドルに下がったが、検索を重ねれば消費量は増えるとの指摘。
全部を担うClio
Clioは新しいロゴを発表し、案件を中心に機能を一つの画面へ集める「単一の窓」という考えを掲げました。Above the Law編集長のジョー・パトリス氏は、中小事務所向けソフトの枠を出てAI企業として認められたい意図があるとみています。基調講演では電話応対や受任受付、時間管理まで自社機能として示されました。
Law360で小規模事務所を担当するレイチェル・リペトー氏は、会場で連携企業に話を聞きました。電話応対サービスの企業は発表の2日前にClioから連絡を受けたといいます。請求関連の企業は数年前に同様の発表を基調講演で初めて知り、拍手しながら内心では泣いていたそうです。投資の検討をやめ「Clioがやるのを待つ」という事務所経営者もいたといいます。
Clioを率いるジャック・ニュートン氏はAppleを引き合いに出しました。パトリス氏はこれを、他社を載せるOSから自社アプリで固める型への転換と受け止めています。元は連携企業側で現在はClioに属するエド・ウォルターズ氏は、Apple MusicがあってもSpotifyを使えるiPhoneに近いと説明したそうです。8amのニッキー・ブラック氏は比較の難しさを指摘し、どちらの路線が正しいかは半年ほどで見えると述べました。
判例調査の勢力図
アンブロジ氏は約10億ドルで買収したvLexによって、Clioが判例や裁判記録の大量データを持つ法務AIの主要企業になったと評価しています。LexisNexisやThomson Reutersと争えるかという問いに、パトリス氏は高額な料金に不満を持つ小規模事務所から少しずつ顧客を取るなら勝算はあると答えました。リペトー氏はLaw360の親会社がLexisNexisであることを断ったうえで議論に加わっています。
ブラック氏はユーザー1人あたり月100ドル未満で使えるAI判例調査ツールを調べたと紹介しました。米国では弁護士会が会員に判例検索を無料提供する契約があり、かつてはFastcaseがほぼ独占していました。契約の満了が続き、現在はLexisNexis系のサービスと市場を二分しているそうです。
アンブロジ氏は自身の調べものを例に挙げます。ClaudeにCourtListener(米国の無料判例データベース)などを接続して質問すると、検索の過程を示しながら良い回答が返ってきたといいます。NetDocumentsやFilevineもこのデータを取り込み、起案中の文書にある引用判例の照合に使っていると説明しました。
画面を経由しない利用
文書管理のNetDocumentsやeディスカバリーのEverlawは、MCPという接続規格で外部AIからのデータ利用を広げています。Everlawは自社の発表でMCP経由の利用が急増していると示したそうです。アンブロジ氏の取材に対し、NetDocumentsのジョシュ・バクスター氏は利用者がHarveyやClaudeから接続し、自社画面が不要になる可能性を認めたといいます。
パトリス氏は、今後は複数のAIモデルに作業を振り分ける「オーケストレーター」が主流になるとみています。その場合は選ばれる機能で競うより、事務所の知識や証拠を保管し、どのエージェントにもデータを渡す立場が安全だと述べました。
費用の話題も出ました。ClioConの基調講演では、あるタスクの費用が18か月で5万ドル相当から69ドルに下がったとするスライドが示されています。これに対しパトリス氏は、単価が下がってもエージェントが検索を重ねれば消費量は増えると指摘しています。リペトー氏も技術に縁のなかった小規模事務所には新たな固定費になりうると述べました。
人が離れる事務所
後半では、米国の大手法律事務所が有力パートナーの離脱を機に解散へ向かった件が取り上げられました。ABA Journalのビクター・リー氏は、AIの活用にも前向きな名門だったと振り返り「結局は人の商売だ」と語ります。パトリス氏によると、年間約20億ドルの売上のうち4分の1ほどが少数の弁護士に集中していたそうです。
パトリス氏は、競業避止の取り決めを使えない米国の弁護士は移籍しやすく、事務所が「パーティーの豪華なWeWork」のようになっていると表現しました。銀行のように報酬を後払いにして引き留める案も紹介しています。ブラック氏は、弁護士の知識を事務所の資産として蓄える取り組みがこの流動性の中で成り立つのかを問い、業務データを50万ドルで買いたいというメールが届いた経験から、AI企業がデータを強く求めていると話しました。
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