AIで本人訴訟が増えれば裁判所の資源が足りない、元判事の指摘
弁護士を立てずに裁判に臨む本人訴訟の当事者が、書式の理解や書面作成にAIを使い始めています。Thomson Reuters Instituteの番組で、米マイアミで31年間判事を務めたベイリー氏がAI時代の司法アクセスについて語りました。裁判所に入れることと正義に手が届くことは別だという前提から、AIの可能性と危うさ、事件増加への備えを論じています。
- マイアミの差し押さえ事件は年平均約7,000件から、大不況期には1年で9万件に達しました。
- 本人訴訟は欠席判決や一度きりの審理で終わりやすく、準備不足の当事者は戸惑います。
- AIで法的問題に気づく人が増えれば事件も増えるとして、審理枠や職員、裁判官の増員を求めています。
弁護士のいない事件
ベイリー氏はマイアミで刑事、家事、民事の事件を担当してきました。本人訴訟の当事者が集まるのは、弁護士にとって経済的な見返りが小さい事件だといいます。債権回収や立ち退き、資力のない人の事件がその典型です。こうした事件は「景気とともに増減する」と説明しています。
最も深く関わったのは、大不況期の住宅差し押さえ危機でした。マイアミでは年平均約7,000件だった差し押さえ事件が、1年で9万件に達したそうです。その数年間で25万人を超える人が自分の法廷を通ったと振り返ります。本人訴訟の当事者が手続に実質的に参加する方法を、そのころから考え続けてきたと語ります。
一度きりの審理
こうした事件は、ベイリー氏が「一回で終わる」と呼ぶ型をとります。被告が応答せず欠席判決で進むことが多く、審理が開かれても通常は一度だけです。当事者は様子を聞く初回の期日だと思って出廷します。ところが原告側はその日に判決を得る準備を整えており、書類も証人もない当事者は戸惑うことになります。
影響は当事者にとどまりません。州裁判所は口頭の審理で事件を進めるため、審理時間は最も希少な資源だとベイリー氏はいいます。中身のない審理で時間を失うだけではありません。手続を理解できず言い分を聞いてもらえなかったと感じれば、当事者は公正に扱われたと思えず、手続的公正の問題にもなると指摘しています。
裁判官の負担も大きいといいます。原告にも適正手続を受ける権利があり、本人訴訟の被告だけに肩入れはできません。混み合う期日の途中で詳しく説明すれば、ほかの当事者を待たせます。氏は「裁判所は住宅政策をつくる場ではない」と述べつつ、法廷に来る前に情報を得られる仕組みがあれば双方の負担が減ると語ります。
AIに求める正確さ
ベイリー氏は、司法アクセスの格差を埋める初めての現実的な機会がAIだとみています。プロボノや寄付、法律扶助に頼ってきたものの、人も資金も足りなかったからです。AIが当事者に質問を重ね、その回答から定型の書面を作る対話型の仕組みに期待を示します。古い紙の書式からデータを抜き出すより、事件の中身をデータとして扱う方が効率的だとも述べています。
一方で氏が警戒するのは、AIが利用者の望む答えに寄ることです。立ち退き事件で家主の修繕義務違反などの事実がないのに抗弁を並べれば、裁判所の時間を使い、当事者を失望させるという指摘です。誤った案内をするAIは手続的公正を損なうとして、裁判所が信頼できるAIへ当事者を導く必要があると語ります。架空の判例を生成するAIへの懸念にも触れています。
増える事件への備え
責任を負うのは裁判官や弁護士に限らず社会全体だとベイリー氏はいいます。多くの裁判所には独自にAIを開発する資源がありません。そのためベンダーや非営利団体、テック企業との協働が欠かせないとしています。使いにくい仕組みは「誰も訪れない美術館の彫刻」と同じだと述べ、利用者に届く設計を求めました。
AIはすでに裁判所に入り込んでいます。弁護士は検証を経た高価なツールを使い、本人訴訟の当事者は無料のツールを使っています。手書きの手紙だった書面は、引用付きの長文に変わりつつあるそうです。自分の問題が法的問題だと気づく人が増えれば事件も増えるとみて、「アクセスが増えれば、より多くの司法が必要になる」と審理枠や職員、裁判官の増員を訴えます。
番組の終わりに、ベイリー氏は技術者や弁護士会などに呼びかけました。裁判所が安心して当事者を案内できる、正確で信頼できるAIの資源を整えてほしいという内容です。検索で不適切な情報源にたどり着かないための支援も求めました。あわせて、手続のどの場面で人の判断が必要かを議論すべきだと述べています。
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