人を雇っても所長は忙しい、12人に育った法律事務所の成長痛
所員を増やしても所長の仕事は減らず、仕事の中身が変わります。米国の Lawyerist のポッドキャストで、オハイオ州コロンバスで相続・遺言と企業訴訟を扱う ALH Law Group の創業者 Allison Harrison 氏が、3〜4人から12人へ広がった事務所の運営で直面した課題と、その向き合い方を語りました。
ブランドと顧客層の変化
Harrison氏は Lawyerist のコーチングプログラム LAB に5〜6年参加しており、その期間に事務所は大きく成長しました。参加当初は3〜4人の体制で、その多くが退職したのち、現在は12人になっています。収録はクリオ(Clio、法律事務所向け業務管理ソフトの企業)の年次カンファレンスで、多様性と包摂の分野の Reisman Award を受賞した直後に行われました。
成長の背景として同氏が挙げるのはブランドの明確化です。事務所はLGBTQの当事者と女性が所有する事務所ですが、当初はそれをブランドに含めていませんでした。打ち出しを明確にしたところ、「オンラインで自分たちが何者かをはっきり示しているから選んだ」という依頼者が多く現れたといいます。
効果はLGBTQの依頼者にとどまりませんでした。少数派の事業者など、主流から外れていると感じる人々が相談に来るようになり、多言語を話すスタッフの存在も追い風になったと説明しています。合わない依頼者が別の事務所を選ぶことも含めて、価値観を明示する意味があると同氏は語ります。
実務家から監督役へ
人を増やす過程で最も難しかったのは人の管理だったと同氏は振り返ります。難しい依頼者への対応や請求の問題、二要素認証を設定していない所員のログイン支援まで、所長のもとには細かな用件が次々に届きます。人が増えるほど育成と対応に時間が取られ、そのぶん他の仕事を委ねる必要が生じるのです。
同氏はこの変化を、選手から指導者やコーチに転じることにたとえます。昨年の合宿では各自が担う役割を紙に書き出しましたが、同氏の分は紙に収まりきりませんでした。ストレスで髪が抜けるほどだったと明かし、その場で委任の作業に取りかかったといいます。
この棚卸しは一度で終わらず、今年さらに4人を採用したため再び必要になっています。同氏によれば、半年ごとに見直すのが自分には合っているとのことです。所属弁護士もパラリーガルや事務スタッフが加わったことで、自分が担うべき業務を選び直し始めているそうです。
学びを所員に広げる
同氏自身は業界のカンファレンスやビジネス書で学んできましたが、それを所員に広げるのは「思ったより難しい」と語ります。今年は読書会から始め、全員に同じ本を読ませて昼食をとりながら内容を話し合いました。
事務所は経営手法 EOS を採用しており、その定例会議を続けていました。ところが所員は会議の名称や議題の意味を理解していなかったため、EOSの入門書を全員で読んだそうです。読書を嫌がる所員には、Claude に要点をまとめさせてもかまわないと伝えたといいます。求めているのは300ページを読み通すことより核となる考え方をつかむことだ、というのが同氏の考えです。
小さな変化とAI
最近の課題として同氏が挙げるのは変化の管理です。以前は業務システムの入れ替えのような大きな変更が中心でしたが、今は細かな調整が絶えず続き、こちらのほうが扱いにくいかもしれないと話します。AIでできることを追うだけでも大変だと認めつつ、使うシステムの数は減っていると説明しています。
所員は長年、ソフトが増え続けることに不満を持っていました。いまは「それはやめられないか、AIでできないか」と考えるようになり、業務の整理が進んでいるといいます。一方で仕事のやり方自体は変わり続けるため、採用募集では今日のやり方が4か月後も同じとは限らないと明示する必要があると考えています。
同氏が示すのは、人を加えるたびに何かが壊れると想定しておく姿勢です。壊れたら直し、次の採用でまた直すという考え方です。聞き手のステファニー氏も自身の事務所を弁護士2人と補助者1人から20人規模に育てた際、事務所を2〜3回作り直したと応じました。
本記事は掲載時点の情報です。発言の引用は日本語に訳しています。